政治学(現代政治学) オリジナル問題と模範解答

大学編入2021.04.05

政治学 オリジナル問題 模範解答

はじめに

法学・政治学分野担当の講師が作成した政治学に関するオリジナル問題と模範解答です。民主化研究で有名なオドンネル/シュミッターに関する問題です。

 

 
京都大学や北海道大学、名古屋大学などへの大学編入を希望とされる方や法学研究科・政治学研究科への進学を希望とされる方は、論述の仕方を参考にして頂ければと思います。
 

問題

オドンネル/シュミッターの民主化研究についてその内容をまとめ、研究の意義と限界について論ぜよ。

 オドンネル・シュミッターは、南欧やラテン・アメリカ諸国の事例研究を踏まえつつ権威主義体制からの移行の経路とその力学についての分析を試みた。
 彼らによれば「移行」とは一つの政治体制と他の政治体制との合間である。「移行」は、一方で権威主義体制の崩壊過程の開始によって、他方で何らかの形態の民主政治の樹立や権威主義への回帰、もしくは革命的選択肢の出現によってその境界を画される。また「自由化」は権利の再定義と拡大の過程であり、国家および第三者の恣意的もしくは不法な行為から個人および集団を保護するいくつかの権利を実行力のあるものとする過程を意味する。これに対して「民主化」とは市民の平等な政治参加の権利と義務に基づいた市民権原理の拡張過程として定義されうる。「自由化」と「民主化」の区別は、権威主義体制と民主政との間で出現する様々な過渡的形態を的確に描き出すことを可能にする。
 オドンネルらは自由化と民主化の度合いがともに低い政治体制のことを「独裁(ディクタドゥーラ)とする一方で、両者の度合いがともに高い体制を「政治的民主主義(ポリアーキー)」と呼んだ。両者の中間体制の形態としては権威主義体制の構造を変えることなしに自由化を容認、促進した「ディクダブランダ-柔軟な(ハト派的)独裁制」と部分的な民主化である「デモクラドューラ-強硬な(タカ派的)民主制」が存在する。そこには敗戦、下からもしくは外部からの改革、協定による交渉など、いくつかの移行経路が確定されている。さらに「政治的民主主義」の先には第二の移行形態であり「社会化」された民主主義、すなわち「福祉民主主義」「社会主義的民主主義」「社会民主主義」が位置している。 
 権威主義からの移行過程は次のようなシナリオとして整理されている。まず政府内で、タカ派とハト派の間に亀裂が生じる。ハト派が自由化を宣言する。自由化が進むにつれて反政府側も穏健派と急進派に分裂する。政府ハト派は、反政府穏健派を戦略的同盟者とみなし接触をとる。ここで政府ハト派は、政府としての既得権益を保持する目的から、タカ派の巻き返しを匂わせる(クーデター・ポーカー)。反政府穏健派は、強硬姿勢を貫いて自由化の機会を逃すよりは、ハト派への協力を選択する。「市民社会の復活」とも呼ぶべき拡大された動員が生じる。それは知識人から大衆へ、上から下へ中央から地方へと向かう。また移行の特定局面において社会の多様な層(労働組合、草の根運動、宗教団体、知識人、芸術家、聖職者、人権活動家および専門職団体)が互いに協力しあい「人民」と呼ばれる大きな全体に合流していく。このような「人民大攻勢」は単なる自由化と部分的民主化の限界を拡張し移行を促進する。更にその過程で主導権は反政府穏健派へと移っていく。クーデターは政府ハト派にとっても破滅に他ならず、ハト派は反政府穏健派と協定を結び協力して政府内タカ派を押さえ込もうとする。こうして両陣営がお互いの急進勢力を抑えつつ、自由選挙の実施にこぎつけることで移行は完了する。
 以上のオドンネルらの研究は、様々な国際要因のインパクトを一方で重視しつつも、国際要因や制度及び構造よりも国内アクターの戦略性が重要であるという「アクター中心アプローチ」によって移行過程を分析した点に特色がある。
 ところで本研究は次の2つの点に意義があるといえよう。一つには民主政への移行に関する研究についての当時の潮流を考えてみるとよい。すなわち当時、それまで比較政治学研究において傍流に追いやられてきた南ヨーロッパ(74年のポルトガル、75年のギリシャ、77年のスペイン)の国家を対象とした民主化研究への関心が高まりを見せていたが、オドンネルらは南ヨーロッパのみならずラテン・アメリカをも含んだ包括的な研究の成果を理論的にまとめたのである。もう一つには理論的側面からしてもそれまでの研究は、何故民主制は崩壊するのかといったものや、現に成立している民主政と社会・経済的条件の相関関係についての研究が主流であったが、「そもそもどうして、また如何にして民主政は成立するのか?」といった問いに初めて取り組んだものであった。
 このような意義を認められる反面、限界も指摘できる。オドンネルらの研究は移行開始の理由は圧倒的に国内的内部要因、とりわけ政治指導者(エリート)の選択・行動に見出されると説いてきたが、この仮説は1989年の東欧の事例において支持されにくい。
 第一に東欧の事例では国際的要因の重要性を看過できない。ソ連のゴルバチョフによるブレジネフドクトリンの放棄がなかったならば移行は何ら発生しなかったであろう。また各国の民主化の動きは連鎖的に生じた側面があり、各国相互間で影響を与え合った結果として民主化が促進したともいえる。第二にオドンネルらが軽視しがちな構造的要因も東欧諸国の民主化においては重要なものであった。東欧諸国は冷戦期を通じて西欧諸国(とりわけ西ドイツ)への経済的依存を強めていった。増加する対西側借款は各国の経済的破綻の要因となり、指導者を民主化という選択をせざるを得ない状況に追い込んだといえる。第三にオドンネルらのエリート重視の分析にも批判を加えられよう。東欧諸国の民主化には市民社会や市井の人々の意思や行動が不可欠であったといえ、東欧諸国の民主化はより下からの民主化であった。
 以上のような批判が加えられるもののオドンネルらが創出した諸概念や移行の力学はその後の民主化理論に大きな影響を与えたものとして今日でも評価されているといえる。

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終わりに

いかがでしたでしょうか?
 
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