政治学(国際政治学) 問題と模範解答

大学編入2021.06.01

政治学(国際政治学) 問題と模範解答

はじめに

 某大学院・研究科での試験問題で出題された政治学(国際政治学)に関する問題とその解答例です。ネオリアリストの大家であるケネス・ウォルツに関する問題です。
ケネス・ウォルツ

 模範解答例は、スプリング・オンライン家庭教師に在籍する講師が作成しました。国際政治学の理論に関する問題は、法学研究科や政治学研究科の大学院入試の問題ではもちろん、法学部の定期試験でも出題されることがあります。


リアリズム、リベラリズム、マルクシズムそれぞれいくつかの理論について、ケネス・ウォルツが指摘した「分析レベル」の3つのカテゴリーを用いて、比較しなさい。


 ケネス・ウォルツは戦争の原因を3つのレベル(イメージ)に分類した。すわち、個人(人間性)、国家、そして国際システムである。
 個人の分析レベルを用いる方法は、個々の人々の特徴(個性や人生経験など)に注目することだが、もう一つ方法として、人々に共通の性格、つまり人々に共通する人間性に説明を求めることができる。この点、モーゲンソーのようなクラシカルリアリズムは、人間に内在する権力への渇望という仮定から国家間の本質を権力闘争にみた。そして権力闘争の視点から紛争や戦争の原因を探求し、平和の条件を模索した。このような議論は、同じ人間性によって無限の社会現象を説明しなければならず、なぜあるときには戦争が起こって、別の時には起こらないかということに答えられないという限界を持つ。
 国家のレベルでは国内政治や国内社会の様々な出来事、あるいは政府の機構などに戦争の原因を求める。マルクス主義のうち例えばレーニンは、戦争は資本主義社会の性格によって説明できるという。資本主義社会では、不公平な富の分配が不十分な消費、不況、そして国内投資の欠如をもたらす。その結果、過剰生産を海外の市場で売り、海外投資の機会を創出し、天然資源へのアクセスを担保するために、資本主義は海外での帝国主義的拡張主義に走る。このような帝国主義はまた、巨額の軍事費によって国内経済を刺激する。従ってレーニンの理論は、資本主義諸国間の軍備競争と戦争を予測するのである。
 他方で、リベラリズムは、これとは異なった結論を導き出す。市場の役割を重視するリベラリズムは、資本主義国家は、戦争によって、国際貿易を通じて獲得できる富をみすみす逃すことはないため、対立や戦争を避け、平和的志向を持つに至ると指摘する。国内である一定の政治体制が確立されることで、戦争の可能性を低下させ、国家間の協調と平和が可能となると考えるリベラリズムも存在する。カントはそれを共和制に求めたが、現代ではドイルやラセット等によって民主主義平和論として提示された。(自由)民主主義体制同士の国家は戦争を行わないという議論である。このように、マルクス主義やリベラリズムの幾つかの理論は国家のレベルから戦争の原因についての考えを提示しているが、この国家の性質から社会的事象を説明しようとする議論にも、第一レベルと同様の問題がある。つまり、もしある社会が戦争の原因なら、なぜ「悪い」社会や「悪い」国家の中に戦争をする社会や国家があるのか。なぜ「よい」社会や「よい」国家の中に戦争をする社会や国家があるのか?このような疑問に答えることが困難になるからである。レーニンの議論に則れば、資本主義国家同士の戦争は不可避であり、全ての国家が共産主義になれば戦争はなくなるというが、過去の歴史がこの理論に対する反証となっている。20世紀の後半、ソ連や中国、ベトナムといった共産主義国家が互いに軍事的に衝突した一方で、ヨーロッパ、アメリカ、日本の主要な資本主義国は平和的な関係を維持した。また、市場の役割を重視するリベラリズムの見解は、銀行家や貴族、労働者同士の交流が盛んであったにもかかわらず、第一次世界大戦の勃発によって否定された。
 最後に、第三のレベルである国際システムから戦争の原因を分析する代表的理論としてウォルツなどのネオリアリズムが挙げられる。ウォルツの議論は以下の特徴を有する。①国際政治は無政府状態にあり、各国はそれゆえに自己の生存を目的とし、自力救済が行動原理となる。②国家は全て同じ機能(国内における治安維持ならびに対外的な防衛)を有する。③国際政治における能力の分布が国家の行動(バランスオブパワーの追求)に影響を与える。④二極構造の方が多極構造よりも安定的である。ウォルツは国際システムの構造に着目し、無政府状態としての国際構造が、国家をして自助努力に駆り立てさせるため、国家が対立や戦争に走ると考えた。
コヘインらに代表されるネオリベラリズムも、国際システムのうち、無政府状態という国際構造が、国家を戦争に駆り立てる要因として考える点で、ネオリアリズムと共通する立場にあるといえる。しかしながら、システムのプロセスも重視しており、国家間が国際制度を利用して、相互作用をしていく中で協調が達成されうると考えている点に独自性がある。
 もっとも国際システムからの分析では特定の国家の行動が説明できないという問題もある。この点、シュウェラーらに代表されるネオクラシカルリアリズムは、国際システムと国内政治ないし個人の双方の観点を重視しており、戦争原因についてより説得力のある分析を容易にする可能性を秘めている。国家の対外政策は、独立変数としての国際システム(とりわけ能力の分布としての国際構造)から影響を受けるものの、それは国内政治や、個人といった媒介変数の結果をも反映しているというのである。
 以上、ウォルツの提示した3つのレベルについて論じてきたが、これらのレベルは相互補完的に使用されるべきである。国際政治のどのような現象について説明したいのか、どのような問いを解明したいのかによって、それぞれのレベル及び、理論を併用していくことが望ましいだろう。

©スプリング・オンライン家庭教師

 
本問題にある分析レベルについてより深く理解したい人は、以下の書籍を参考にしてください。
 
 

また以下の書籍は、ネオリアリストであるケネス・ウォルツの理論やネオリベラリストであるロバート・コヘインの理論をかみ砕いて説明してくれています。
 
 

 
いかがでしたでしょうか?
 
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