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【大学院入試 研究計画書の書き方】ー先行研究、研究の独自性・意義、研究の方法ー

大学院入試の研究計画書における「先行研究」とは、自分が取り組みたい研究テーマに関連する既存の学術研究のうち、ある論点に対して問いを立て、独自の学術的な答えをすでに示しているものを指します。研究計画書の書き方で最も差がつくのは、先行研究をただ紹介するだけでなく、そこに対して批判的検討を加え、自分の研究の独自性・意義・研究の方法へとつなげられているかどうかです。多くの研究計画書が「先行研究の要約」で終わってしまい、そこから先の独自性・意義・方法へと論理をつなげられていないために、評価を落としています。
本記事では、研究計画書を構成する「先行研究」「研究の独自性(オリジナリティ)」「研究の意義」「研究の方法」という4つの要素について、冷戦史研究という具体例を通じて解説します。研究計画書の基本的なレイアウトについては研究計画書の基本事項を、問題意識・研究テーマ・研究上の問い(リサーチクエスチョン)の立て方については問題意識、研究テーマ、研究上の問いを先に確認しておくと、本記事の内容がより理解しやすくなります。
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先行研究への向き合い方や独自性・意義の示し方は、文系・理系を問わず研究計画書全体の説得力を左右する部分であり、多くの受験生がどう書けばよいか分からず悩むポイントでもあります。特に、先行研究をどこまで批判的に読み込めているか、独自性と意義を切り分けて説明できているかは、面接での質疑応答でも必ずと言ってよいほど問われる部分です。分野を問わず応用できる考え方を、具体例とともに整理していきます。
研究計画書の作成では、先行研究の探し方から批判的検討の型、独自性・意義の言語化、研究の方法(分析手法)や使用予定の資料・データの明示まで、一つ一つの要素を丁寧に積み上げていく必要があります。独学で取り組む場合は、どこまで書き込めば十分なのか判断がつきにくく、時間ばかりが過ぎてしまうことも少なくありません。大学院入試・院試の対策を、研究計画書の添削から専門科目・英語・面接まで専門講師とマンツーマンで進めたい方は、大学院入試対策コース(無料相談あり)もご覧ください。
研究計画書における「先行研究」とは何か
そもそも(先行)研究とは何でしょうか。人によって定義の仕方は異なりますが、本記事では「何かしらの研究領域における特定の論点に取り組むため、問いを立て、その問いに対して独自の学術的な答えを示したもの」として定義します。
ここでは冷戦史研究という研究領域を例にとって解説します。冷戦史研究には、冷戦の起源を巡る論点、冷戦の終焉を巡る論点、冷戦の変容を巡る論点、冷戦における核兵器の役割を巡る論点、冷戦と第三世界の関係性を巡る論点、冷戦と社会運動の関係性を巡る論点など、実に多くの論点が存在しています。
冷戦史の研究者たちは、それぞれの論点に取り組むために問いを立て、その問いに答えようとします。たとえば冷戦の起源を巡る論点の場合、「冷戦はなぜ始まったのか」という問い(Main Question)を立てることができます。また、その問いに答えるために、「ヤルタ会談に際して、米英ソの指導者は戦後国際秩序のあり方をどのように描いていたのか」、「1940年代後半、米ソの外交政策決定者は相手国の行動をどのように認識していたのか」というような小さな問い(Sub Questions)を立てることもできます。
Main QuestionとSub Questionsの関係
なお、この小さな問い自体が論点になっている場合も多くあります。そして、研究計画書の中で立てるべき問いは、せいぜいこのような小さな問いです。修士課程の研究計画書でMain Questionそのものへの答えを出し切ろうとすると、範囲が広すぎて実現可能性(feasibility)が疑われてしまうため、Sub Questionsのレベルに絞り込むことが重要になります。
そして、「冷戦はなぜ始まったのか」という問いに対して、冷戦史研究者たちはそれぞれ伝統主義、修正主義、ポスト修正主義という3つの立場に立ちつつ、独自の学術的な答えを出しました。伝統主義の立場をとる論者は、冷戦が始まった原因をソ連側(スターリン)に求めたのに対して、修正主義の論者は、その要因をアメリカ側に求めました。他方、ポスト修正主義の論者は、冷戦が始まった原因をアメリカ、ソ連のいずれにも単純には求めず、第二次世界大戦後にヨーロッパの地で生じた「力の真空」状態の中で、米ソ両国が対峙することになり、相手に対する不審や誤解を重ねる中でやむを得ず冷戦が始まったという議論を展開しました。
先行研究という言葉が指すもの
このように、冷戦史研究という研究領域には冷戦の起源を巡る論点が存在し、その論点に取り組むため、研究者たちは「冷戦はなぜ始まったのか」という問いを立て、それぞれ異なる独自の学術的見解を出しました。やや単純化して言えば、この学術的な答えこそが(先行)研究と呼ばれるものです。研究計画書を書く際には、自分の関心領域にどのような論点があり、その論点に対してどのような答えがこれまで出されてきたのかを、まず把握することが出発点になります。
研究計画書の中で先行研究に割く分量の目安
研究計画書全体に占める先行研究セクションの分量は、指導の現場での目安として、全体の1〜2割程度に収まることが多いです。先行研究の紹介に紙幅を使いすぎると、肝心の独自性・意義・研究の方法を書く余白がなくなってしまいます。先行研究は「網羅すること」ではなく「自分の論点を際立たせること」が目的だと意識すると、書きすぎを防ぎやすくなります。あくまで指導実務上の目安であり、募集要項に明示的な配分規定がある場合はそちらを優先してください。
先行研究の探し方と読み方の基本
先行研究への批判的検討に入る前に、そもそも先行研究をどう探すのかで悩む受験生は少なくありません。ここでは、専門的な研究データベースを使ったことがない方でも取り組みやすい探し方の基本を整理します。
データベース・書誌情報からの探し方
もっとも一般的なのは、CiNii Researchや各分野の学術データベース、Google Scholarなどで、自分の関心テーマに関わるキーワードを日本語・英語の両方で検索する方法です。検索でヒットした論文の中でも、被引用数が多い論文や、比較的新しいレビュー論文から読み始めると、その研究領域全体の見取り図をつかみやすくなります。レビュー論文には、その分野でどのような論点が議論されてきたかが整理されていることが多いため、自分でゼロから論点を洗い出すよりも効率的です。
大学の図書館やオンライン蔵書検索(OPAC)を使えば、関連する学術書にもアクセスできます。学部の卒業論文とは異なり、大学院入試の研究計画書では、教科書レベルの参考書だけでなく、専門書や学術論文を先行研究として挙げることが期待されます。
限られた時間で効率よく読むコツ
受験勉強と並行して先行研究を読み込む時間を確保するのは簡単ではありません。1本の論文をすべて精読しようとすると時間がかかりすぎるため、まずは要旨(アブストラクト)・研究の目的・結論の3か所を先に読み、自分の関心と関連が深いと判断できた論文だけを本文まで読み込むという読み方が効率的です。関連が薄いと判断した論文は無理に全文を読まず、次の候補に時間を使う方が、限られた準備期間の中では合理的です。
指導教員候補の業績から辿る方法
志望する研究科の教員の業績一覧(researchmapや大学の教員紹介ページ)を確認し、そこで引用・参照されている論文を辿っていく方法も有効です。志望する指導教員の研究関心と自分の研究テーマが近い場合、教員の論文の参考文献リストが、そのままその領域における主要な先行研究のリストになっていることも珍しくありません。
先行研究の探し方に唯一の正解はありませんが、複数の経路(データベース検索・レビュー論文・教員の業績)を組み合わせることで、偏りの少ない見取り図を作ることができます。なお、研究計画書の中で挙げるべき先行研究(脚注に載せるものも含む)は、指導の現場では5本以内に収めるのが無難とされることが多いです。これは特定の大学の公式な字数規定というわけではありませんが、限られた字数の中で論点を明確に示すための実務上の目安として押さえておくとよいでしょう。
文系(人文・社会科学)と理系での探し方の違い
文系、特に歴史学・政治学・社会学などの分野では、単著の学術書がその領域の議論を集約していることが多く、まずは定評のある概説書・専門書から読み始めて全体像をつかむのが効率的です。個別の論文だけを追うと、議論の文脈を見失いやすいため、章末や巻末の参考文献リストを併せて確認する習慣をつけましょう。
一方、理系や実証系の社会科学(心理学・経済学の一部など)では、学術雑誌に掲載された個別論文の蓄積が先行研究の中心になります。この場合は、CiNii ResearchやGoogle Scholarでの検索に加えて、実験計画や統計処理の方法が自分の研究で再現・応用できるかという観点でも先行研究を読み込む必要があります。分野によって先行研究の「単位」(書籍中心か論文中心か)が異なる点を理解しておくと、探し方に迷いにくくなります。
先行研究に対する批判的検討の書き方(5つの視点)
研究計画書の中では、自身が取り組みたい学問領域に存在する論点や、その論点に取り組むために立てた問いに関わる先行研究を探し、そのうえでそれらに対して批判的検討を加えていくことが求められます。その際に大切なのは、Ⅰ 先行研究の独自性や意義を指摘することと、Ⅱ 先行研究の限界を指摘すること(批判・修正・補足して考えるべき点はないかを指摘すること)の2点です。
Ⅰ 先行研究の独自性や意義の指摘
この点についてはそこまで詳細に述べる必要はなく、たとえば「山田(2018)は〜という点を明らかにしており、〜という意味で意義がある。他方、鈴木(2022)は〜という点を明らかにしており、〜という意味で評価できる」のような形で表現することができます。紙幅が限られている場合や、先行研究を列挙し過ぎることで全体の構成が悪くなる場合には、「これまでの先行研究では、〜という点については明らかにされている」のような表現方法をとっても問題ありません。
Ⅱ 先行研究の限界を指摘する5つの視点
先行研究の限界を指摘する方法はいくつかありますが、代表的な視点を整理すると次の表のようになります。
| 視点 | 内容 |
|---|---|
| ①問われるべき重要な論点 | 他に問われるべき論点はないかという視点 |
| ②学術的見解の妥当性 | 先行研究の中で示されている学術的見解は妥当かという視点 |
| ③焦点を当てていない対象 | 先行研究が焦点を当てていない研究対象は他にないかという視点 |
| ④研究手法の問題点 | 先行研究が使用している研究手法に問題や不十分な点がないかという視点 |
| ⑤資料・データの問題点 | 先行研究が実証のために使用している資料やデータに問題や不十分な点がないかという視点 |
①の視点については特に注意が必要です。先行研究を調べ、「この論点については誰も取り組んでいない。自分が初めてだ」という考えに至った場合でも、そこに落とし穴があります。つまり、その論点についてこれまで取り組まれてこなかったのは、研究者たちの間でそもそもそれが論じるに値しない論点であるとみなされてきたか、論じるには値するが実証に必要な一次資料がないと諦められてきたからである可能性があるためです。
②の視点については、たとえば特定の論点についての学術的見解A、B、Cについて、それぞれ単独では説得力のある見解の場合でも、A、B、Cを比較しつつ関連づけて検証してみると論理的矛盾が生じる場合もあります。その場合、やはりDの見解こそ正しいのではないか、というように先行研究を批判できるわけです。③〜⑤の視点は、先行研究が扱っていない対象・手法・データという「抜け」を探す作業であり、①②と組み合わせて使うことで、批判的検討にバランスが生まれます。
教育学分野での批判的検討の例
冷戦史研究以外の例も見ておきましょう。たとえば教育学分野で「アクティブラーニングの学習効果」という論点を扱う場合、先行研究のA氏が「大学生を対象にした調査で学習効果が確認された」と報告していたとしても、調査対象が特定の学部・特定の科目に偏っているという限界(③の視点)を指摘できれば、「異なる学部・異なる科目でも同様の効果が見られるか」という新しい問いにつなげることができます。このように、分野が変わっても①〜⑤の視点の使い方の基本は同じです。
批判的検討の文章を書く練習の仕方
批判的検討は、いきなり研究計画書用の文章として書こうとすると筆が止まりがちです。まずは「〇〇(著者名・年)は△△と論じているが、□□という点では限界がある」という一文型のテンプレートに、読んだ先行研究を一つずつ当てはめていく練習から始めると取り組みやすくなります。複数の先行研究について同じ型で書き出してみると、共通する限界や、逆に先行研究同士が矛盾している点が見えてくることがあり、それが独自性の手がかりになります。
研究の独自性(オリジナリティ)の示し方
先行研究の限界を指摘することができれば、自ずと自身が行いたい研究の独自性(オリジナリティ)も明確になるはずです。自分が行おうとしている研究は、従来の研究とはどのように異なるのかを示しましょう。
完全な独自性を出せる段階ではないという前提
もっとも、完全な意味での独自性を出せるのは、せいぜい修士論文の提出時、あるいは博士後期課程への進学後である場合が多いです。研究計画書の提出段階で、十分な先行研究に対する批判的検討を済ませ、自信を持って自分の研究の独自性を主張できる学生は稀でしょう。そして、その点についてはほとんどの大学教員も心得ています。
しかしだからと言って、研究計画書の中で研究の独自性を示す必要がないという訳ではありません。そもそも、大学側が研究計画書を通じて知りたいのは、学生が研究論文の冒頭で書くべき内容を理解し、それをコンパクトにまとめられる能力があるのかという点でもあります。一般的な研究論文の冒頭では、研究の独自性や意義などを書く場合が多く、修士論文や博士論文ではこれが必須の要素になります。
独自性が特に重視される進学先
であるならば、できる限りでよいので、先行研究に対する批判的検討を行い、完全なものでなくても研究の独自性を示した方が、採点者である大学教員に対して良い印象を残すことができます。ちなみに、難関大学や旧帝国大学などへの進学を検討されている方や、将来的に博士後期課程への進学を希望される方にとっては、研究の独自性や意義を示せるかどうかが極めて重要になってきます。それらをしっかりと示せるかどうかが、研究計画書に対する評価を大きく左右します。
独自性を言葉にするときの型
独自性を文章にする際は、「先行研究では〜という視点(対象・手法・データ)が扱われてこなかった。本研究では、この点に着目し〜を明らかにすることを目指す」という型を使うと、批判的検討との論理的なつながりが崩れにくくなります。独自性は「先行研究の限界」を裏返した形で書くと、唐突な主張に見えず、審査する側にも根拠が伝わりやすくなります。逆に、先行研究への言及を経ずにいきなり「私はこの点に独自性がある」と書いてしまうと、根拠のない自己主張のように読まれてしまうため注意が必要です。
人文系と理系で独自性の示し方はどう変わるか
人文系の研究では、既存の解釈枠組みや概念に対して新しい視点を提示すること自体が独自性になりやすい一方、理系や実証系の研究では、先行研究が扱っていない対象・条件・手法を扱うことが独自性として認識されやすい傾向があります。たとえば「これまで動物実験でしか確認されていなかった現象を、ヒトを対象にした実験で検証する」というように、対象を変えること自体が独自性になる場合もあります。自分の分野で独自性がどのような形で評価されやすいかを、先行研究の書き方から観察しておくと、独自性の主張に説得力を持たせやすくなります。
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研究の意義をどう書くか
よく研究の独自性を示すだけの人がいますが、それでは不十分です。「私の研究はこれまでの先行研究と違って、〜に焦点を当てるんだ」ということを示しても、「それで?」「それをすることが何で重要なの?」ということになりかねません。
独自性と意義はセットで示す
これまでの研究との違いを示すだけでなく、その違いに焦点を当てて研究することで、自らが取り組む学術領域においてどのような新しい知見を提示できるのか、どのような学術的な貢献ができるのかという点についても併せて示す必要があります。独自性は「何が違うか」、意義は「その違いにどんな価値があるか」を答えるものだと考えると、両者の役割の違いが整理しやすくなります。
研究の意義を書くときの表現パターン
「まだ研究を始めていない状況で、研究の意義と言われても」という疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか。しかし、この点について大学教員が知りたいのは、確定的なものではなく期待されるものに過ぎません。あくまで、どのような研究の意義を見出せそうなのかを示唆すれば十分です。一例ですが、下記のような書き方ができます。
- 「本研究を通じて、〜のような知見を得ることが期待できる」
- 「〜のような示唆を得ることができるだろう」
- 「〇〇(研究領域)において、これまで見過ごされてきたAについて焦点を当てることで、B中心主義的な見方を相対化させ、〇〇(研究領域)におけるAの役割を再考する契機となるはずである」
いずれの表現も、「まだ確定していないが、こういう方向性の知見が得られそうだ」という見通しを示す点で共通しています。断定を避けつつ、読み手に研究の価値が伝わる書き方を意識するとよいでしょう。
理論研究と実証研究で異なる意義の書き方
理論的な研究(概念整理や思想史的な検討が中心の研究)では、「既存の概念枠組みでは説明できない事象を、新しい枠組みで捉え直せること」自体が意義になりやすいです。一方、実証的な研究(調査やデータ分析が中心の研究)では、得られたデータが政策・実務にどう活用できるかまで示せると、意義がより具体的に伝わります。自分の研究がどちらの性格に近いのかを意識して、意義の書き方の重心を調整するとよいでしょう。
研究の方法(分析手法)の選び方
問題意識、研究テーマ、研究上の問い、研究の独自性と意義など研究内容のメインの部分が明確になったら、研究を実施していくための手法についても考え、研究計画書の中に反映させなければなりません。
分野で一般的に用いられる分析手法を把握する
たとえば政治学の分野では、次の表のような分析手法が一例として整理されることがあります。これは特定の学術団体による公式分類ではなく、指導実務上の整理の一例として捉えてください。
| 分析手法 | 内容 |
|---|---|
| 思想 | 概念分析などを通じた研究方法 |
| 計量 | 統計学などを駆使した実証的な分析 |
| 数理 | ゲーム理論などを用いて理論構築を行う研究方法 |
| 歴史 | 史料の収集、読解、分析を行う分析方法 |
ご自身の専門分野ではどのような分析手法が使われることが一般的なのかについて、先行研究や教科書などを通じて把握するようにしてください。そのうえで、自分が立てた研究上の問いに答えていくためには、どのような分析手法を採用するのが最適であるのかをよく考えるようにしてください。採用するべき分析手法は必ずしも1つである必要はありません。研究上の問いに答えるうえで、複数の分析手法を採用することが妥当であるならば、その旨を記載しても問題ないでしょう。
他分野での分析手法の考え方
政治学以外の分野でも、考え方の基本は同じです。たとえば経済学では計量経済学的な手法(回帰分析など)が主流である一方、経営学では特定の企業・事例を深く掘り下げるケーススタディが用いられることも多く、教育学や社会学ではインタビューや参与観察を用いた質的研究と、質問紙調査を用いた量的研究の両方が存在します。志望する研究科の教員がどちらの手法を主に使っているかを事前に確認しておくと、研究の方法の記述に説得力を持たせやすくなります。
「分析を行う」という表現だけで終わらせない
研究の方法を書く際に注意したいのが、「分析を行う」というような漠然とした表現で終わらせないことです。使用する統計解析ソフトの名称や、具体的な分析の手続きまで踏み込んで明記することで、研究の実現可能性(feasibility)を示すことができます。たとえば「アンケートを行う」ではなく、「対象者の属性・人数・収集手段」まで具体的に書くことで、審査する側は研究がどの程度実行可能かを判断しやすくなります。
抽象的な表現と具体的な表現の比較
「分析を行う」型の表現がなぜ評価されにくいのか、具体例で比較すると次の表のようになります。
| 抽象的な表現(避けたい例) | 具体的な表現(目指したい例) |
|---|---|
| アンケートを行い分析する | 国内在住の20〜30代社会人100名にオンラインでアンケートを実施し、統計解析ソフトSPSSを用いて重回帰分析を行う |
| 文献を調査する | 〇〇公文書館所蔵の外交文書を中心に、一次資料の記述内容を時系列に沿って比較分析する |
| インタビューを実施する | △△業界で5年以上の実務経験を持つ社員10名を対象に、半構造化インタビューを実施し、発話内容を質的コーディングする |
対象・人数・手段・分析ツールまで具体化することで、同じ内容でも説得力が大きく変わることが分かります。研究計画書を書き終えたら、「分析を行う」「調査する」のような一般的すぎる動詞が残っていないか、見直しの段階でチェックするとよいでしょう。
使用予定の資料・データの明示の仕方
どの学問分野でも、資料やデータは研究を実施していくために必要不可欠なものです。それについて示さないと、研究の実現可能性(feasibility)が疑われてしまい、マイナス評価につながってしまいます。
資料・データの入手方法まで書く
したがって、研究で使用する予定の資料やデータがあれば、それが何か、またそれをどのように、どこで入手する予定なのかについても明示するようにしてください。歴史研究であれば「〇〇公文書館所蔵の外交文書」、社会調査であれば「対象者の属性・人数・調査時期・収集方法」というように、具体性を持たせることが評価につながります。
資料・データが確定していない段階での書き方
出願段階では、資料やデータの入手先が完全には確定していない場合も少なくありません。その場合は、「〇〇のような資料の入手を予定しており、△△(機関名)への照会を検討している」というように、現時点での見通しと、確認・入手のための具体的な行動計画をセットで示すと、実現可能性への疑念を和らげることができます。確定していないことを隠すのではなく、確定に向けた道筋を示すという姿勢が重要です。
人を対象とする調査の場合の留意点
アンケートやインタビューなど、人を対象とする調査を計画に含める場合は、進学予定の大学院で求められる倫理審査の手続きについても、出願前の段階から概要を確認しておくと安心です。研究計画書の段階で審査結果まで示す必要はありませんが、「倫理的な配慮が必要な調査であることを理解している」という姿勢が伝わる一文を添えておくと、研究計画全体の完成度が高く見えます。所属予定の研究科によって手続きは異なるため、詳細は必ず志望先の最新の案内でご確認ください。
先行研究・独自性・意義・方法をつなげる書き方のコツとよくある失敗
ここまで解説してきた先行研究、研究の独自性、研究の意義、研究の方法の4つの要素は、それぞれ独立して存在するのではなく、一つの論理の流れとしてつながっている必要があります。先行研究の限界を指摘したからこそ独自性が生まれ、その独自性が持つ意義を示し、その意義を確かめるために特定の研究の方法を採用する、という順序で読み手に伝わるように構成することが理想です。
よくある失敗例
指導の現場でよく見られる失敗には、次のようなパターンがあります。
- 先行研究の要約だけで終わってしまい、批判的検討(限界の指摘)がない
- 独自性の主張が先行研究の限界の指摘と論理的につながっておらず、唐突に感じられる
- 研究の意義を「独自性があること」自体で説明してしまい、「それによって何が分かるのか」まで書けていない
- 研究の方法が「アンケートを行う」「文献を分析する」など抽象的な表現にとどまっている
- 使用予定の資料・データが具体的に書かれておらず、実現可能性が伝わらない
つながりを確認するチェックの仕方
書き終えた後は、「先行研究の限界→独自性→意義→研究の方法」という順に読み返し、前の段落の内容を受けて次の段落が書かれているかを確認するとよいでしょう。各段落を単独で読んでも意味が通るだけでなく、通して読んだときに一つのストーリーとして成立しているかどうかが、研究計画書全体の説得力を大きく左右します。第三者に読んでもらい、論理の飛躍がないかを確認してもらうことも有効な方法です。
改善前・改善後で見る書き方の違い
抽象的な書き方と、批判的検討を経た書き方を並べると、論理のつながり方の違いがより分かりやすくなります。
| 改善前(先行研究とのつながりが弱い例) | 改善後(批判的検討を経た例) |
|---|---|
| 私の研究は先行研究と違って〇〇に注目する点が独自である。 | 山田(2018)は〇〇を扱っていないという限界がある。本研究はこの点に着目し、〇〇が△△に与える影響を明らかにすることを独自の目的とする。 |
| アンケートを行い、その結果を分析する。 | 先行研究では調査対象が限定的であったため、本研究では対象を拡大し、〇〇名にオンラインでアンケートを実施し、統計解析ソフトを用いて分析する。 |
改善後の例に共通しているのは、「先行研究の何が足りなかったか」を先に示してから、自分の取り組みを説明している点です。この順序を意識するだけで、独自性や研究の方法の説得力は大きく変わります。
面接での質問対応にもつながる
先行研究・独自性・意義・研究の方法のつながりを整理しておくことは、書類選考だけでなく面接対策にも直結します。「その独自性はどの先行研究の限界を踏まえたものか」「なぜその分析手法を選んだのか」といった質問は、面接で頻繁に問われる定番の切り口です。研究計画書を書き上げた後は、各セクションについて「なぜそう言えるのか」を自分の言葉で説明できるか、声に出して確認しておくとよいでしょう。
よくある質問(FAQ)
研究計画書に挙げる先行研究は何本くらいが目安ですか?
指導の現場では、脚注に載せるものも含めて5本以内に収めるのが無難とされることが多いです。これは特定の大学の公式な規定ではなく、限られた字数の中で論点を明確に示すための実務上の目安です。本数を増やすより、挙げた先行研究それぞれに対して批判的検討を丁寧に加えることを優先しましょう。先行研究を列挙するだけになってしまう受験生は少なくありませんが、本数よりも1本あたりの検討の深さの方が評価に直結します。
先行研究が見つからない場合、独自性があると考えてよいですか?
その論点にこれまで取り組まれてこなかった場合、必ずしも自分が初めて取り組む独自の論点であるとは限りません。研究者たちの間で論じるに値しない論点とみなされてきたか、実証に必要な一次資料がないと諦められてきた可能性があるため、検索の仕方を変えて再度確認することをおすすめします。使用するキーワードを日本語だけでなく英語でも試したり、隣接分野のデータベースまで範囲を広げたりすると、見つかっていなかった先行研究が出てくることもあります。
研究の独自性と研究の意義は何が違いますか?
独自性は「自分の研究が従来の研究と何が違うのか」を示すものであり、意義は「その違いに焦点を当てることでどのような学術的な貢献ができるのか」を示すものです。独自性の主張だけで終えず、それによって何が明らかになるのかまで書くことが重要です。両者を混同して同じ内容を繰り返してしまう答案が多いため、書き終えたら「違いの説明」と「価値の説明」に分かれているかを見直しましょう。
研究計画書の段階で独自性を完全に示せなくても大丈夫ですか?
問題ありません。完全な意味での独自性を出せるのは、修士論文の提出時や博士後期課程への進学後である場合が多く、出願段階の学生に完成された独自性を求める大学教員は多くありません。できる範囲で先行研究への批判的検討を行い、方向性を示すことが大切です。無理に断定的な独自性を主張するより、根拠のある見通しを示す方が誠実な印象につながります。
研究の方法(分析手法)はどのように選べばよいですか?
まずは自分の専門分野で一般的に用いられている分析手法を、先行研究や教科書を通じて把握しましょう。そのうえで、自分が立てた研究上の問いに答えるために最適な手法を選びます。複数の手法を組み合わせて使うことも問題ありません。手法を選んだ理由(なぜその手法が自分の問いに答えるのに適しているのか)まで一文添えると、説得力が増します。
使用予定のデータや資料が確定していない場合はどう書けばよいですか?
確定していないことを隠すのではなく、現時点での見通しと、確認・入手のための具体的な行動計画をセットで示すとよいでしょう。「〇〇のような資料の入手を予定しており、△△への照会を検討している」といった書き方が有効です。人を対象とする調査を予定している場合は、倫理審査の手続きを理解している旨を添えると計画の完成度が高く見えます。
先行研究を批判的に検討する際に注意すべき落とし穴は何ですか?
「誰も取り組んでいないから自分が初めてだ」と安易に考えてしまうことです。取り組まれてこなかったのには理由がある場合が多く、その理由まで踏み込んで検討することで、より説得力のある批判的検討になります。また、複数の先行研究を比較せずに1本だけを根拠に結論を出してしまうことも、よくある落とし穴の一つです。
研究計画書の書き方に不安がある場合、どこに相談すればよいですか?
まずは研究計画書の全体構成を解説した記事や、指導実績のある専門家への相談を活用するのがおすすめです。研究計画書の全体像は研究計画書の例文とテンプレートでも解説しています。スプリング・オンライン家庭教師では、研究計画書の作成指導を数多く手がけてきた講師による無料相談を実施しており、先行研究の探し方から批判的検討の文章化まで一つひとつ伴走して確認することができます。
まとめ|研究計画書の先行研究・独自性・意義・研究の方法の書き方
研究計画書における先行研究、研究の独自性、研究の意義、研究の方法は、それぞれ独立したパーツではなく、一つの論理の流れでつながっている必要があります。多くの受験生が先行研究の要約だけで筆を止めてしまいますが、そこから一歩踏み込んで批判的検討を加え、独自性・意義・方法へとつなげられるかどうかが、研究計画書全体の完成度を左右します。本記事のポイントを振り返ります。
- 先行研究とは、ある論点に対して問いを立て、独自の学術的な答えを示したものである
- 先行研究は批判的検討(独自性・意義の指摘と限界の指摘)を加えてこそ研究計画書で価値を持つ
- 先行研究の限界は、論点・見解の妥当性・対象・手法・データという5つの視点から検討できる
- 研究の独自性は完全でなくてよく、方向性を示すだけでも採点者に良い印象を残せる
- 研究の意義は独自性とセットで示し、「それによって何が分かるのか」まで書く
- 研究の方法は「分析を行う」で終わらせず、具体的な手法・対象・データの入手方法まで明記する
- 4つの要素を「限界の指摘→独自性→意義→方法」という一つのストーリーとしてつなげることが説得力を高める
先行研究の探し方や批判的検討の仕方、研究の独自性・意義・方法の書き方は、慣れないうちは特に難しく感じやすい部分です。独学での対策に不安がある場合は、専門の指導を活用するのも一つの方法です。スプリング・オンライン家庭教師には、研究計画書の作成の仕方を心得ているうえ、これまでに何百人単位で研究計画書の作成指導を行ってきた講師も在籍しております。研究計画書の作成でお困りの方は、ぜひ無料相談よりお問い合わせください。
研究計画書の書き方を、白紙の状態から提出までひととおり確認したい方は、研究計画書の書き方7ステップ|白紙から提出までの手順と分野別の例文もあわせてご覧ください。本記事の内容を含めた全体の流れを1本で追えます。
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