【大学院入試 文系】研究計画書ー先行研究、研究の独自性・意義、研究の方法ー
大学院進学2023.04.02
目次
はじめに
今回の記事では、研究計画書を構成する要素である先行研究、研究の独自性(オリジナリティ)、研究の意義、研究の方法について解説をします。研究計画書のレイアウトについては、特に指定がない場合は、以下のものを参考にすることをお勧めします。
研究計画書の基本事項についてはこちらの記事を、問題意識、研究テーマ、研究上の問い(リサーチクエッション)についてはこちらの記事を参照にしてください。
先行研究
そもそも(先行)研究とは何でしょうか?
人にとって定義の仕方は異なりますが、本記事では「何かしらの研究領域における特定の論点に取り組むため、問いを立て、その問いに対して独自の学術的な答えを示したもの」として定義をします。
ここでは冷戦史研究という研究領域を例にとって、解説をさせていただきます。
冷戦史研究においては、下記のような実に多くの論点が存在しています。
- 冷戦の起源を巡る論点
- 冷戦の終焉を巡る論点
- 冷戦の変容を巡る論点
- 冷戦における核兵器の役割を巡る論点
- どのようなスケジュールを立てて、冷戦と第三世界の関係性を巡る論点
- 冷戦と社会運動の関係性を巡る論点
そして、冷戦史の研究者たちは、それぞれの論点に取り組むために問いを立て、その問いに答えようとします。
たとえば、冷戦の起源を巡る論点の場合、「冷戦はなぜ始まったのか?」という問い(Main Question)を立てることができます。
また、その問いに答えるために、「ヤルタ会談に際して、米英ソの指導者は戦後国際秩序のあり方をどのように描いていたのか」、「1940年代後半、米ソの外交政策決定者は相手国の行動をどのように認識していたのか」というような小さな問い(Sub Questions)を立てることもできます。
なお、この小さな問い自体が論点になっている場合も多いです。
また、修士論文で、すなわち研究計画書の中で立てるべき問いは、せいぜいこのような小さな問いです。
そして、「冷戦はなぜ始まったのか?」という問いに対して、冷戦史研究者たちはそれぞれ、伝統主義、修正主義、ポスト修正主義という3つの立場に立ちつつ、独自の学術的な答えを出しました。
伝統主義の立場をとる論者は、冷戦が始まった原因をソ連側(スターリン)に求めたのに対して、修正主義の論者は、その要因をアメリカ側に求めました。
他方、ポスト修正主義の論者は、冷戦が始まった原因をアメリカ、ソ連のいずれに対しても求めませんでした。彼らは、第二次世界大戦後にヨーロッパの地で生じた「力の真空」状態の中で、米ソ両国が対峙することになり、相手に対する不審や誤解を重ねる中で、冷戦がやむを得なしに冷戦が始まったという議論を展開しました。
このように、冷戦史研究という研究領域には、冷戦の起源を巡る論点が存在していました。
そしてその論点に取り組むため、研究者たちは「冷戦はなぜ始まったのか」という問いを立て、それぞれ異なる独自の学術的見解を出したのです。やや単純化して言えば、この学術的な答えこそ(先行)研究と呼ばれるものと言えます。
先行研究に対する批判的検討
研究計画書の中では、ご自身が取り組みたい学問領域に存在する論点やその論点に取り組むために立てた問いに関わる先行研究を探し、そのうえで、それらに対して批判的検討を加えていくことが求められます。
先行研究の探し方については、別稿に譲り、ここでは先行研究に対する批判的検討を行う方法を示す方法について解説します。
その際、大切なことは、
Ⅰ 先行研究の独自性や意義を指摘すること
Ⅱ 先行研究の限界を指摘すること(批判/修正/補足して考えるべき点はないかを指摘すること)
の2点です。
Ⅰ 先行研究の独自性や意義の指摘
この点については、そこまで詳細に述べる必要はなく、
たとえば
「山田(2018)は〜という点を明らかにしており、〜という意味で意義がある。他方、鈴木(2022)は、〜という点を明らかにしており、〜という意味で評価できる」
のような形で表現することができます。また、紙幅が限られている場合や、先行研究を列挙し過ぎることで、全体の構成が悪くなる場合には、
「これまでの先行研究では、〜という点については明らかにされている」
のような表現方法をとっても問題ございません。
Ⅱ 先行研究の限界を指摘
方法はいくつかありますが、
①問われるべき重要な論点は他にないかという視点と
②先行研究の中で示されている学術的見解は妥当か
という視点から先行研究の限界を指摘すると良いと思います。
①の視点については、注意が必要です。
先行研究を調べ、
「この論点については誰も取り組んでいない。自分が初めてだ!」
という考えに至った場合でも、そこに落とし穴があります。つまり、その論点についてこれまで取り組まれてこなかったのは、研究者たちの間で、そもそもそれが論じるに値しない論点であるとみなされてきたか、論じるには値するが、実証に必要な一時資料がないと諦められてきたからである可能性があるからです。
②の視点については、たとえば、特定の論点についての学術的見解A、B、Cについて、それぞれ単独では説得力のある見解の場合でも、A、B、Cを比較しつつ関連づけて検証してみると、それぞれの見解に論理的矛盾が生じる場合もあります。その場合、やはりDの見解こそ正しいのではないか、というように先行研究を批判できるわけです。
先行研究の限界を指摘するにあたっては、①、②のほかにも
③先行研究が焦点を当てていない研究対象は他にないかという視点
④先行研究が使用している研究手法に問題や不十分な点がないかという視点
⑤先行研究が実証のために使用している資料やデータに問題や不十分な点がないかという視点
も重要になってきます。
なお、研究計画書の中で挙げるべき先行研究(脚注の載せるものも含めて)は、5つ以内に止めるのが無難です。
研究の独自性・意義
研究上の独自性(オリジナリティ)
先行研究の限界を指摘することができれば、自ずとご自身が行いたい研究の独自性(オリジナリティ)も明確になるはずです。自分が行おうとしている研究は、従来の研究とはどのように異なるのかを示しましょう。
もっとも、完全な意味での独自性を出せるのは、せいぜい修士論文の提出時、博士後期課程への進学後である場合が多いです。
研究計画書の提出の段階で、十分な先行研究に対する批判的検討を済ませ、自信を持って自分の研究の独自性を主張できる学生は、稀でしょう。そして、その点については、ほとんどの大学教員も心得ています。
しかしだからと言って、研究計画書の中で研究の独自性を出す必要がないという訳ではありません。
そもそも、大学側が研究計画書を通じて知りたいことは、その学生が、一般的な研究論文の冒頭で書くべき内容を理解し、それをコンパクトにまとめられる能力があるのか、という点でもあります。そして、一般的な研究論文の冒頭では、研究の独自性や意義などを書く場合が多いです(修士論文や博士論文では必須です)。
であるならば、できる限りで良いので、先行研究に対する批判的検討を行い、完全なものでなくても研究の独自性を示した方が、採点者である大学教員に対して良い印象を残すことができると言えます。
ちなみに、東京大学や京都大学、一橋大学、旧帝国大学などへの進学を検討されている方や、将来的に博士後期課程への進学を希望される方にとっては、研究の独自性や意義を示せるかどうかは極めて重要になってきます。それらをしっかりと示せるかどうかが、研究計画書に対する評価を大きく左右します。
研究の意義
よく、研究の独自性を示すだけの人がいますが、それでは不十分です。
「私の研究はこれまでの先行研究と違って、〜に焦点を当てるんだ」ということを示しても、
「それで?」「それをすることが何で重要なの?」ということになりかねません。
これまでの研究との違いを示すだけでなく、その違いに焦点を当てて研究することで、
自らが取り組む学術領域において、どのような新しい知見を提示することができるのか/どのような学術的な貢献ができるのかという点についても併せて示す必要があります。
もっとも、「まだ研究を始めていない状況で、研究の意義と言われても・・・」
という疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか?
しかし、この点について大学教員が知りたいのは、確定的なものではなく、期待されるものに過ぎません。
あくまで、どのような研究の意義を見出せそうなのかということを示唆すれば問題ありません。
あくまで一例ですが、下記のような書き方ができます。
- 「本研究を通じて、〜のような知見を得ることが期待できる」
- 「〜のような示唆を得ることができるだろう」
- 「○○(研究領域)において、これまで見過ごされてきたAについて焦点を当てることで、B中心主義的な見方を相対化させ、○○(研究領域)におけるAの役割を再考する契機となるはずである」
研究の方法
分析手法
問題意識、研究テーマ、研究上の問い(リサーチクエッション)、研究の独自性と意義など研究内容のメインの部分が明確になったら、研究を実施していくための手法についても考え、研究計画書の中に反映させなければなりません。
たとえば、政治学の分野では、「思想」(概念分析などを通じて研究方法)、「計量」(統計学などを駆使した実証的な分析)、「数理」(ゲーム理論などを用いて理論構築を行う研究方法)、「歴史」(史料の収集、読解、分析を行う分析方法)という4つの主要な分析手法が存在しています。
ご自身の専門分野ではどのような分析手法が使われることが一般的なのかについて、先行研究や教科書などを通じて把握するようにしてください。
そしてそのうえで、自分が立てた研究上の問いに答えていくためには、どのような分析手法を採用するのが最適であるのかをよく考えるようにしてください。
(採用するべき分析手法は必ずしも1つである必要はありません。研究上の問いに答えるうえで、もし複数の分析手法を採用することが妥当であるならば、その旨を記載しても問題ないでしょう)。
使用予定の資料・データ
どの学問分野でも、資料やデータは、研究を実施していくためには必要不可⽋なものです。
それについて⽰さないと、研究の実現可能性(feasibility)が疑われてしまい、やはりマイナス評価につながって しまいます。
したがって、研究で使⽤する予定の資料やデータがあれば、それが何か、またそれをどのように(どこで)⼊⼿す る予定なのかについても明⽰するようにしてください。
おわりに
いかがでしたか?
今回、解説させていただきました、先行研究、研究の独自性(オリシナリティ)、研究の意義については、特にその書き方が分からないという方が多いよう見受けられます。
今回の記事が、少しでもそのような方のお役に立てることを祈っています。
次回の記事では、採用予定の研究手法や使用予定の資料を研究計画書の中にどのように反映させれば良いのかという点について簡単に解説を行いつつ、今回の記事で扱った先行研究をどのように探せば良いのかという点についても併せて解説をさせていただく予定です。
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